1980年代後半からさまざまな南方系の生物が北へ東へと分布を拡大したり、個体数を増加させている。中でも、昆虫類の事例が多い。

1)蝶類
 1980年代後半から南方系昆虫類の記録が増加し始め、1990年以降顕著となる。よく知られているのは、蝶の仲間。
・クロコノマチョウ
 神奈川県下では,1980年代前半まで少数の成虫記録が得られているだけで、明らかな迷蝶の位置づけであった。ところが、1980年代後半になると個体数は少ないものの毎年成虫記録が得られるようになった。そして1990年、大磯町生沢でススキから5卵と幼虫53頭が確認され、県内で初めて発生が確認された。1995年までの間に県内各地で発生が確認された。現在は、山地域を除く県内各地で発生が見られる状況となっている。北限は茨城県あたりか。分布拡大のスピードは、比較的ゆっくりである。
・ツマグロヒョウモン
 1980年代前半までは神奈川県内における記録の非常に少ない種類であったが、1980年代後半以降記録が増加した。1998年以降記録が急増し、2005年には県内低地域、とりわけ湘南地域ではきわめて普通に見られる種となる。分布域は、すでに福島県まで到達している。食草となるスミレ類が広く栽培されていることも、分布拡大の一因となっている。
・ナガサキアゲハ
 1999年に横浜市中区、鎌倉市、三浦市で成虫が記録され、2000年には三浦半島から湘南地域の広い範囲で成虫が記録され、茅ヶ崎市では卵・幼虫が確認される。
 2001年以降県内で分布を拡大し、現在では山地域を除く広い範囲で見られるようになっている。現在の分布北限は、福島県あたり。
・ムラサキツバメ
 1996年に、県内初記録となる成虫1頭が藤沢市片瀬山で記録される。2000年に横浜市戸塚区、三浦半島各地、湘南地域各地、小田原市で幼虫が記録され、発生が確認された。その後、年ごとに記録地が追加され、現在では県内のほとんどの地域で本種の記録が得られている。現在の北限は福島県海岸部。 幼虫はマテバシイやシリブカガシの若葉を食べる。マテバシイは本来紀伊半島以南に自生する樹木であり、関東でムラサキツバメが発生することはなかったはずである。ところが、マテバシイが都市化した環境にも強いことから各地に植栽されたことで、ムラサキツバメが関東でも発生することができたわけである。

 

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