故浜口哲一氏が生前、「BIRDER」誌に載せていた文章です。

 

これからの里山の保全

  里山,特にその中の雑木林の姿について,自然を守ろうとする人たちの間でも意見の食い違いが生じることがあります。それは,雑木林に人手が入らなくなり,ササが茂ったり,徐々に常緑広葉樹の多い林に移行することについてどう評価するかという点についてです。林には,もともと遷移という性質があります。草地に木が生え,その木も明るい環境を好む樹種から,暗い環境でも育つ樹種へと移り変わり,最後にはその場所の気候によって姿の決まる極相林に姿を変えていく,それが植生の遷移と呼ばれる現象です。

 遷移という現象を頭におくと,例えばタブノキやアラカシなどが侵入して暗くなってきた雑木林は,自然の力が勝って,より自然林に近い姿を取り戻しつつある望ましい姿と考えることができます。一方でそうした遷移が進むとキンランのように明るい雑木林の中で親しんできた動植物が姿を消してしまうという問題もあります。生物多様性の観点に立つと,遷移の進行は必ずしもプラスにならない一面をもつことは確かです。そうしたことに目を向ける人は,人手を加えて伝統的な明るい雑木林の姿を保つことが欠かせないと考えます。近年は,特にそうした意見が強くなり,多くのボランティアが,雑木林を伐採したり林床を刈り払う作業に加わっています。

 しかし,鳥の観察をしている人の立場で考えると,雑木林のすべてを切ったり刈ったりする管理の方針には賛成しかねる場合が多くあります。例えば,冬鳥として渡来するシロハラやアオジにとっては,姿を隠せる藪があることが欠かせません。シジュウカラにしても,太めの木がないと巣を作れる樹洞がありませんし,林床があまりに乾いた状態だと巣材のコケを探すこともできなくなってしまいます。

 要はバランスの問題だと思いますが,どこも同じ方法で管理するのではなく,どんな状態がより多くの動植物に都合がよいのかを考えながら,変化に富んだ多様な環境を維持していくことが,これからの里山の保全には欠かせないことではないでしょうか。自然の遷移に任せる場所を作り,その場所の自然の特徴を見極める場所を作ることも忘れてはならないと思います。